日韓首脳会談後の共同記者会見(要旨、官邸情報より一部抜粋)

http://www.kantei.go.jp/jp/koizumispeech/2004/07/21press.html


小泉首相の発言

日朝平壌宣言を誠実に履行されるのであれば、正常化するという立場であることを明らかにしておきたい。拉致問題、核問題、ミサイル問題を総合的、包括的に解決された際に、正常化がなされるということである。
私の任期はあと2年ほどであるが、その間に、日朝平壌宣言が誠実に履行されれば、正常化がなされる。これが誠実に履行されれば2年にこだわらない。1年もあり得る。私は期間にはこだわらない。誠実な履行がなければ1年経っても2年経っても、3年経ってもない。望ましいことは、できるだけ早く日朝平壌宣言を誠実に履行することである。時期にはこだわらない」

NHK総合 19:15頃放送では未改変で放送された)


この小泉総理の発言は、2004/7/21・済州島での日韓首脳会談で、両国首脳の記者会見の席上で行われた公式なものだ。NHKでは会見での総理発言を無修正/無編集で報道しているため、一次ソースとしての信憑性は高い。
この発言には、以下の要点が含まれる。

  1. 小泉政権の任期は2年は継続する(途中交代はない)とする続投宣言
  2. 今後2年間の日朝国交正常化交渉の日本側の交渉相手は小泉政権であることの宣言
  3. 「日朝国交正常化」の実現は、年限が決まっているわけではない
  4. 北朝鮮平壌宣言を履行(拉致問題・核問題の完全解決)すれば、1年以内であっても国交正常化が成立しうる
  5. 北朝鮮拉致問題・核問題の解決をしなければ、2年を経過しても国交正常化は行われない
  6. 2年を経過すると日本側の交渉相手は小泉政権ではなくなるが、その場合、小泉政権と同じ条件での交渉はない(より強硬な交渉者が政権を取る可能性を示唆)

しかし、実際の報道では、(4)の部分だけがクローズアップされ、明言している(1)〜(3)、(5)及び、(1)〜(2)を受けて言外ににじませている(6)はほとんどの放送局・新聞は報道しない。

(4)は北朝鮮に対する「飴」であり、(5)、(6)はムチに当たる。(5)はこれまでの小泉総理発言では「言外に相手に気取らせるモノ」として自ら明言することはなかったが、今回ははっきりと「日朝国交正常化の前提条件(拉致問題/核問題の解決)がない限り、国交正常化は不可能」と明言している。
また、(5)は小泉総理からの「拉致問題は解決していない」というメッセージでもあり、「早く安否不明者の情報を出せ」とせっついているものだ。つまりこれが次の北朝鮮へのメッセージ(=要求)であるわけだが、この部分は多数の報道にはスルーされるだろう。結果的に、小泉総理は北朝鮮に対して融和的、日朝国交正常化を1年以内に実現させたくて焦っている、それは参院選で負けて落ちた支持率を取り戻すためのサプライズとして国交正常化実現を目指しているからだ、という論調に結びついて偏向記事が流れていくことになることが容易に予想される。

日朝国交正常化問題というのは、平壌宣言を言質として「日本側が正常な関係と認めるための条件を、北朝鮮側が満たさなければ成立しない」という、ここがミソになっている。拉致・核が解決したかどうかを決めるのは北朝鮮側ではなく日本側であり、日本側が満足しない限り国交正常化は成立せず、国交正常化が成立してからでなければ北朝鮮側の望みである経済支援は一切行われない。
つまり、国交正常化をしなくて困るのは北朝鮮、しなくても困らないのが日本であり、北朝鮮から譲歩を引き出すために国交正常化交渉はできるだけ長引かせた方が日本にとっては得るものが大きい。
それが判っているから、小泉総理は「条件が満たされればすぐにでも国交正常化→経済支援をしてもいい」が「それが満たされないなら、小泉総理が任期を終えても経済支援はない」と、北朝鮮を揺さぶっている。(だから横で聞いていた盧武鉉は真っ青になっていた)


そんなわけで、報道各局/各社が(4)以外の部分を取り上げるかどうかで、報道の偏向性を量り知ることができる。
もし、(4)しか報道されなければ、説明を意図的に省略することで重要な真意の伝達を阻害しているのは、報道各局/各社自身であり、一次情報発信者=総理の説明不足などではないことがわかる。




これを見抜けるか見抜けないかで、視聴者のメディアリテラシーが試される。