小泉総理は国交正常化に前向き?

    岡田
    「サミットでも議題となった北朝鮮問題について質問します。総理の二度目の訪朝後七十日間が経過をしました。いまだに金正日国防委員長も約束した十名の安否不明者についての調査結果はあきらかにされていません。日本はこのまま待つしかないんでしょうか。調査結果がいつまでに示されるのか、総理の責任ある答弁を求めます。
    他方で総理は、国交正常化を一年以内にもと発言していますが、拉致問題に目立った進展が無いなか国交正常化をいつどのように、その交渉を本格的にスタートするつもりなのでしょうか。それともすでに本格交渉を開始されたのですか?
    わたくしは十人の安否不明者についてまったく回答が無いままの、本格交渉開始には慎重であるべきと考えます。小泉総理の責任ある答弁を求めます」

    小泉
    拉致問題及び日朝国交正常化についてでございますが、安否不明の拉致被害者に関する再調査については、北朝鮮側が関係機関等によってこれを進めているものと称しており早期に回答が得られるよう引き続き北朝鮮にはたらきかけていく考えであります。また、曽我さん家族を含む拉致被害者家族の帰国の実現により、国交正常化交渉再開の前提は満たされたと考えていますが、その具体的時期等については現時点では決まっておりません。
    いずれにせよ拉致問題を含む諸懸案の解決なくして日朝国交正常化はありえません

    第160回臨時国会での民主党岡田代表からの質問、及び小泉総理大臣の答弁
    平成16年8月2日 (月)、衆議院本会議、北朝鮮政策について質問
    岡田党首 0:19:32-
    小泉首相 0:35:53-

    http://www.shugiintv.go.jp/rm.smil?deli_id=24276&time=00:38:11.0&media_type=rn



小泉総理は日朝国交正常化に前向き、というのが最近のマスコミ各紙の論調として定着しているようだが、多くの記事・社説は赤字の部分を削除して要約する。
この部分があるかないかで、意味はまったく違ってくるのに、である。


ところで、もし本当に小泉総理が日朝国交正常化→日朝国交樹立を狙っているとしたら、明らかにおかしいことがある。
現時点で、少なくとも今年の11月まではブッシュ大統領アメリカの責任者である。
そのブッシュと小泉総理は、かつてのロンヤス関係に迫るほどに親密な関係を築いていると言われる。それこそ、「ポチ」呼ばわりされるほどにだ。
先のG8サミットでも、その親密さがクローズアップされていた。
先進国首脳が「親密だ」というのは、仲がいいというだけではなく、それだけ密に情報交換がなされていて、何らかの外交的アクションを起こす場合に「事前了解」を得ている部分があるということだ。


ブッシュ・アメリカはすでに北朝鮮人権法案を成立させている。これは北朝鮮平壌宣言を守らなければ人道支援以外の援助を一切禁止する法案、と見なして良い。いわば、アメリカからの側面支援とも言えるものだ。
ブッシュから言えば「ジュン、核・拉致が解決されない限り手を緩めるな!」というメッセージでもある。
それに対して小泉総理の行動が本当に「日朝国交正常化に前向き、拉致は幕引き、核は棚上げ」であるとしたら、ブッシュからもっと激しい抗議や不快感が小泉総理に向けて放たれていなければおかしいではないか。
北朝鮮人権法案は、日本国内の対北強硬派と利益が一致する法案でもあるからだ。


ここまで説明して、まだなお「小泉は北朝鮮融和策を実行するつもりだ」と考えているとしたら、それもまた読み違っていると言えるだろう。


北朝鮮を自壊させることで、中国と韓国の間に緩衝地帯がなくなることを韓国は望んでいない。
北朝鮮を自壊させることで発生する難民を受け入れることを、中、韓、露は、喜んではいない。
指導者を潰して体制を作り替えることの難しさをイラク戦で身をもって体験したアメリカは言わずもがな。
北朝鮮自壊で発生する再建費用の捻出を迫られるのは日本であり、日本も北朝鮮の自壊は望んでいない。


となると、安易に強硬的な態度は取れず、かといって甘い顔もできない。
そうなると、「口ではうまいことを言って融和的に扱いつつ、時間が来たら自動的に起動する時限爆弾」を次々に敷設していく、というのが小泉総理が採りうる手段となる。


いずれにせよ、「一次情報に肉薄すること」だけでなく、その発言に対する関係国のリアクションをもう少し注意深く見るべきだ。


脳内世界だけが、世界の全てじゃないことを見誤らないよう心がけたい。